少し前に大学生を相手に「キャリア」について講義する機会があった。
大学の頃にお世話になった先生から「学生相手に話してみない?」とお誘いを受け、最初は「話すことあるかなー」と思ったけど働き始めて10年を振り返ってみればそれなりに話ができるかもと思って引き受けた。
講義ではキャリアについて、いくつかテーマを挙げて話をしたのだが、今回はその中から「キャリアの安定」について話したことを記録しておく。
安定したキャリア
「安定したキャリア」と聞いて思い浮かべるのはどんなものだろうか?
多くの人、特に学生が思い浮かべるのは「公務員」や「大企業」ではないだろうか。
就活で「安定志向」という単語を耳にしたとき、「ベンチャー企業」や「中小企業」を指すことはほとんどない。大抵、大手企業を目指す人のことを指すだろう。
ただ、自分はこの「安定」について違った意見を持っている。
キャリアの安定は多くの人が想像するほど企業の影響を受けない。
それよりも、個人のスキルや経験によるところが大きい(もちろん、0対100ではないが)。
だから、組織としての安定性が高い大企業に勤めていても、よくよく考えたら個人のキャリアは安定していない、ということが多々あると思っている。
ここで、そもそも安定とは何かという問題が浮かび上がってくるが、結局のところ何が起こっても飯を食っていけるか、の一言につきると思う。
何か不足の事態があっても生活資金を稼ぎ続けられることだ。
だから、ビジネスで一発あてて大金持ちになりたいとか、飯が食べられなくても好きな仕事だけをして生きていきたいという極端な例は今回の議論には含んでいない。
あくまで、安定してそれなりの生活費を稼いでいくことの話をする。
ベンチャーは安定?
こういう話をすると、じゃあ人数の少ないベンチャー企業に行ったり、売上規模の小さい中小企業にいくことが安定なのか、という議論になる。
もちろん、従業員数や資本金の大小と平均年収は明らかに比例しており、待遇に差があることは疑いようのない事実だ。
ただ、その待遇を安定して維持できるかという点はまた別の問題だろう。
昨今、大企業で好業績にも関わらず早期退職希望を募るケース(実質的な退職勧奨)が増えてきているし、新型コロナのパンデミックの影響を受けて一気に業績が悪化し、社員の待遇を大幅に下げる例も少なくない。
こういうとき、大手企業に入って安定していたと思っていた自分のキャリアが思ったほど安定してなかったと思った人は多いのではないだろうか。
逆に安定とはほど遠い会社にいたけど、いつでも飯が食っていけるという意味で安定している人も大勢いる。
結局、所属する会社はあまりあてにならないということだ。
人数の少ないベンチャー企業でも価値のあるスキルが身につけられれば、会社が潰れてもすぐに次が見つかるだろうし、逆に大企業でも求められる能力を身に付けなければ意外と簡単に路頭に迷うことになる。
無意味なラベル
大手企業、ベンチャー企業。
もちろん、それぞれの傾向・特徴はあるからそれは生かすべきだろう。
実際、大企業は滅多なことでは潰れないだろうし、ベンチャー企業は若いうちから実務経験がつめることが多い。
ただ、そのことが自分のキャリアの安定と本当にリンクしているのかをきちんと考えてほしい。
安定よりも成長を求めてベンチャー企業に行く。
成長よりも安定を求めて大企業に行く。
そういう思考で止まってしまうのは危ない。
成長機会のないベンチャー企業は思ったよりもたくさんあるし、若いうちから素晴らしい成長機会を与えてくれる大企業は意外と多い。
ベンチャー企業や大企業というラベル、それ自体にはそれほど意味がないと思う。
そういうラベルは頭の片隅に置いておく程度にして、それぞれの環境が何をもたらし何が得られるかを考え、キャリアを作っていってほしい。
安定は必要?
でも、そもそも安定は必要なのだろうか。
もちろん人それぞれではあるが、キャリアが安定していると逆説的に積極的にリスクテイクができるようになる。
「最悪、転職してやりなおせるし」と自信が持てれば、売上ゼロのスタートアップに参画して一発勝負して夢を追いかけこともできる。
もちろん、勝負をしないでそのままの意味で安定した道を歩むこともできる。
本当の意味でキャリアの安定を求めていけば、より選択肢のある自由なキャリアプランニングができるようになる。
人生の中で大きな位置を占めるキャリアにおいて自由になることは、とても良いことなのでお薦めですよ。
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と、まぁ、こんな話を大学生にした。
偉そうに書いたけど、自分がキャリアで自由になったとは思ってない。
ただ、そういうことを考えるようにしているという話。
最近だとベンチャーじゃなくて、スタートアップって言いそうだな。