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『メリトクラシー』を読んで

『メリトクラシー』を読みました。8月の読書。

メリトクラシー

メリトクラシー

  • 講談社エディトリアル
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1958 年にイギリスのマイケル・ヤングという社会学者によって書かれた本。 『メリトクラシー(meritocracy)』という言葉を生み出し、その概念を説明したメリトクラシーの原典ともいえる歴史的な著作。

先月読んだサンデル教授の『実力も運のうち? 能力主義は正義か』で何度も引用されていて読みたいなーと思っていた。 原著は 1958 年に出版され、日本では 1965 年に『メリトクラシーの法則』というタイトルで至誠堂から出版。その後、1982 年に『メリトクラシー』として再度出版されて以降は絶版となっていたようだ。 「どこかの図書館で借りられるかな~」と半ば諦めかけていたのだが、タイミング良く今年7月に講談社エディトリアルから復刊。あいにく Kindle 版がなかったので、紙の本を amazon で購入して読んだ。

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内容はもちろんメリトクラシーについて書いているのだが、「2034 年にメリトクラシーとその歴史を振り返る本」という設定になっている。 要するに、1958 年に 2034 年を想像して、そこにたどり着く一連の歴史を想像して書く、ということをやっている。 そのため、どの部分が史実でどの部分がフィクションなのかを常に考えながら読まないといけない。 それに、イギリスの教育制度や労働運動などの話題が多く出てきて、前提知識がぜんぜん足らないので読むのが結構辛かった。

一応読み切ったが、内容として理解できたのは4割くらいなんじゃないかなという感じ。 正直、翻訳があまりよくないんじゃないかなーと思っていて、amazon のレビューにも同じようなことを書いている人がいた。 ただ、ひさしぶりにこういう内容の固い本を読んだから、自分の文章読解力が低いだけという可能性も十分あるのだけど。

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サンデル教授の本で描かれた現代社会の分断を 60 年も前に描いている点にはかなり驚かされた。 サンデル教授の本のネタの 6-7 割はこの本からきてるといっても過言ではない。 メリトクラシーによって世襲主義をやめ、公平な能力主義に変えたのに、結局、能力の世襲主義に行きついてしまうという指摘はとても鋭い。

ただ、上にも書いたけどいかんせん読みにくすぎるので、サンデル教授の本だけ読んでおけば十分だったかな、と思った。 強いて挙げるならば、古典のすこし固い本を読んだという満足感は多少なりとも得られたかもしれない。

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